子供に優しい中国人とその教育観 収録

子供を連れて中国各地を歩いていると、中国人は子供に優しいと思う経験をすることが、たびたびあります。中国で地下鉄に子供と乗車すると、座席に座っている人が「小朋友、小朋友(シャオポンヨウ、シャオポンヨウ)」と筆者の子供を手招きし、座れ座れと言いながら座席を勧めてくれます。「小朋友」とは「小さな友達」の意で、この場合は日本で名を知らない子に「ボク」などと言って話しかけるのと同様の感覚です。

 一方、子供に優しいというのを通り越して、中国には、子供に対する「しつけ」というものがないのではないか、と思う経験をすることもあります。

 今回は、中国各地で筆者が経験した子供に優しい中国人とその教育観に関する現場コラムです。

■ 西安で焦る中国人

 数年前、まだベビーカーに乗っていた子供を連れて、筆者は西安兵馬俑を見学していました。11月の西安は既に冬を迎えたところでした。そのとき、筆者の子供はひざ下程度の半ズボン(七分長け)を履いていました。すると、多くの中国人がびっくりしながら、中国語を勉強し始めたばかりの筆者に対して、身振り手振りで一生懸命訴えかけてきました。

「寒いから、もっと子供に服を着させろ。長ズボンにしろ」

 日本では、冬になると保育園などで寒風摩擦をしたりします。また、真冬でも元気に半そで半ズボンという子供もいます。しかし、多くの中国人には、そのようなことは信じられない行為に映るようです。なぜなら、中国人は体を冷やしてはいけない、というのが多くの場合の基本発想であるからです。冬ともなると中国人の赤ん坊などは“もこもこ”の格好をしています。

■ 中国国内線の中で暴れる子供と笑顔の祖父母

 中国国内線に乗っていたあるとき、通路をはさんだ筆者の横の席に5歳程度の子供とその祖父母という3人組がいました。子供は靴を履いたまま、座席の上で奇声を発しての大暴れ。食べ物もそこら中に散らかし放題。それでも、祖父母は笑顔で子供の様子を眺めていました。客室乗務員も一切注意などはせずにの放置状態。周りの人間は“空気”に過ぎず、自分たち3人だけの世界があるようでした。

■ 世界自然遺産でもお構いなし

 中国の世界自然遺産のひとつである広東省の丹霞山に行ったときのことです。世界ジオパークに認定されている自然の中を歩いていると、母親2人組にそれぞれの子というグループが筆者の前を歩いていました。子供たちは、小学校低学年程度の年齢のようでした。母親はおしゃべりに夢中。子供は自然の花を抜き放題。樹の枝を折り放題。最後には、手に持つペットボトルを大自然の景観の中に投げつけていました。

 こういった光景はこのときに限りません。中国各地の世界遺産などの景勝地でも、しばしば見かけるものです。筆者が現在住む武漢市では、東湖や武漢大学の桜祭りが有名です。筆者が桜の花見に出かけたときにも、そこに植えてある花木を抜き放題、折り放題にしている子供どころか、大人もいましたし、武漢市の植物園では、園内になるすももをもぎり取り、食べる人もいました。広州市の白雲山でも、父親が花壇の花を引き抜き、子供に渡していました。

 ただし、こういった状況にじくじたる思いをしている中国人がいることも事実です。たとえば、こういった場面に同行していた筆者の中国人の友人には、「これが残念ながら中国の実態。自然を大切にするとか、花を抜いてはいけないとか、周りに恥ずかしくない行為をするとかを考えない人も多いのが現実。自分だけ良ければすべて良し的な態度は改めなければならない。だけど、そういった考えと行動規範が浸透するまでにはまだまだ時間がかかるね」と筆者に話しかけてきた人も数人いました。

■ まとめ

 筆者は「日本が良くて、中国が悪い」と言う気はありません。最初に紹介したように、中国人は子供や老人など弱者に優しいという素晴らしい面があります。

 中国では夫婦共働きが基本です。どちらかの親が孫の面倒を見ていることが多くあります。必然、中国人の子供は祖父母に育てられるというケースが多くあります。たとえば、中国の南部地域の田舎の場合、田舎の祖父母に子供を預け、夫婦2人で深センなど沿岸の発展都市に出稼ぎに出ているケースも多くあります。

 四川省湖北省武漢市はマージャン好きの人が多く住む場所です。筆者の住む武漢市の公園では青空の下、マージャンを楽しむ老人が多くいます。その近くで、老人夫々の孫たちが遊んでいる光景も見受けます。現在の日本と中国では、子供の教育環境が異なるため、このことが今後どのように影響していくのかは興味深いところです。(執筆者:奥北 秀嗣 提供:中国ビジネスヘッドライン)