中国陝西省歌舞劇院 高松公演に寄せて 名誉会長が四国新聞に寄稿 転送

万代の友誼へ「心の往来」を



「人生 相知るを貴ぶ」 ―― 友情こそをかけがえのない宝とした唐の大詩人・李白の言葉です。

1300年前、シルクロード最大の世界都市・長安(現在の陝西(せんせい)省西安市)で、この李白たちと尊き友誼(ゆうぎ)を結んだのが、遣唐留学生の阿倍仲麻呂でした。19歳で海を渡り、玄宗皇帝らの信任を得て、54年間、中国の大地に不滅の足跡を残しました。

この仲麻呂を主役として、唐王朝の最高峰の舞と調べを再現するステージが、陝西省歌舞劇院の楽舞詩「長安の月」です。

「曲は口から離れず、拳(こぶし)は手から離れず」を合言葉に、歌と踊りのたゆまぬ鍛錬に徹し抜いている人間芸術の粋(すい)であります。

5月より民音の招へいで始まった全国公演は好評を博し、月末は高知県愛媛県、6月1日には香川県県都高松市で開催されます。四国新聞社はじめ、関係者の御尽力に厚く御礼申し上げます。

日本へ帰国の途についた仲麻呂の船の遭難を聞き、李白は慟哭(どうこく)し、友の高潔な人格を「明月」に譬(たと)えて偲(しの)びました。それほど強く美しい心の絆が、両国の一衣帯水の歴史には輝いているのです。

今年は日中国交正常化から40年。国と国の友好といっても、人と人の信頼によって築かれます。

観音寺(かんおんじ)市出身の大平正芳元首相は、当時、外務大臣として「互いの言葉に信を置き、言葉を行為によって裏書きする」との信念で、中国側との交渉に臨まれました。

国交正常化が結実した折、周恩来総理が日本側に贈った 『論語』 の一節「言必ず信あり。行い必ず果たす」は、まさに大平先生たちの信義を讃(たた)えるものです。

周総理に私がお会いした1カ月後の昭和50年1月、大平先生と「日中平和友好条約」の早期締結について語り合った時も、お二人の深い心の共鳴が伝わってきました。

のちに首相として西安市を訪れた大平先生が、力いっぱい小旗を振って歓迎してくれた少年少女の健康で明るい笑顔こそ、日中親善と世界平和の象徴なりと強調されていたことも、忘れられません。

草の根の人間外交が光る香川では、7月にも「日中交流ウイーク」が実施されると伺いました。高松空港と上海を結ぶ定期便も好調な搭乗率を続けていると、四国新聞で報道されております。

私が知る高松市の御夫妻は、長年、中国からの留学生たちを温かく迎えて、「日本のお父さん、お母さん」と慕われてきました。「一人の青年を大切にすることは百人との友好にも通じます」と、清々(すがすが)しく微笑(ほほえ)んでおられます。

時の国際情勢がどうあれ、誠実な民衆の心の往来がある限り、日中の「金の橋」は盤石です。

奇(く)しくも、香川県陝西省と友好提携を結ばれてきました。歌舞劇院の方々も「香川公演は、わが故郷に帰る思いで最高の舞台にします」と張り切っておられます。

千古の香(かぐわ)しい友誼の明月に思いを馳(は)せるとともに、万代までも照らす平和友好の旭日が昇りゆく「文化の交流」「青年の交流」をと、私は願ってやみません。



−2012年5月30日付四国新聞より−