今天中国〜中国のいま(43) 文化財を見つけたら

1974年に見つかった秦始皇帝陵兵馬俑。貧村は有数の観光拠点に一変した=西安市
1974年に見つかった秦始皇帝陵兵馬俑。貧村は有数の観光拠点に一変した=西安市
 明・清朝時代の旧王宮、故宮博物院(北京)で先日、異例の「しのぶ会」が開かれた。対象は研究者でも指導者でもない。5月に道路建設現場のクレーン転倒事故に巻き込まれ、亡くなった農民工(出稼ぎ者)の男性(享年54)である。

 故宮博物院の発表によると、男性は1985年、河南省の自宅で古い水がめを発見。中には、後に元朝時代の貴重な文化財と判明する銀器などがあった。転売業者が袋いっぱいの札束を持ってきたが「俺のものではない。国のものだ」と売却を拒否。故宮博物院を訪ね、すべて寄贈した。

 その後、家族が病気になった際に故宮博物院から支援を受けたこともあったが、男性は出稼ぎ生活を続けた。周囲からは「当時売っていれば、もっと稼げたのに」と揶揄(やゆ)されたという。

 しのぶ会で男性の息子は「貧しかったが、父は寄贈したことを悔いていなかった」。インターネット上では「80年代は、カネより精神と名誉を大事にした」との書き込みが見られた。

 中国では文化財の不法転売事件が後を絶たない。2015年には遺跡から計5億元(約80億円)相当を盗掘したグループが遼寧省で摘発された。男性の「美談」に注目が集まるのは、経済成長の陰でまん延する拝金主義への自戒の念か。

 世界遺産である中国・西安市の「兵馬俑(へいばよう)」も、井戸を掘っていた農民が偶然発見した。地元の人に聞くと、農民は当局から2元(約32円)と配給券をもらっただけだった。その後、8千体もの像が掘り出された。

 もし正直に届け出なかったら、「世紀の大発見」は今も地中に眠っていたかもしれない。 (北京・相本康一)

 =随時掲載

=2017/06/27付 西日本新聞朝刊=